4分で読めます

「土曜に取っておきますね」を仕組みにする — 個人商店の記憶とロイヤルティアプリ

商店街の店で、こんな経験はないでしょうか。

顔を見ただけで「いつもののでいい?」と聞かれる。子どもの頃に親と通っていた店で、大人になってから「お母さん、元気?」と声をかけられる。「これ好きだったよね。土曜に入るから取っておくよ」と言われる。

ポイントカードは1枚もありません。
それでも、その店には通い続けていたはずです。

あれは何だったのか

こうした体験が成り立っていたのは、店主がお客様について3つのことを覚えていたからです。

覚えていたこと 具体例
誰か 顔、名前、家族
何をしたか いつ来て、何を買ったか
何が好きか 好み、買わなかったけど見ていたもの

そして店主は、覚えているだけではありませんでした。覚えたことをもとに、先回りして動いていました。

入荷を知らせる。商品を取っておく。必要以上に勧めない。

ここには、値引きの話は出てきません。

なぜ成立しなくなったのか

店が大きくなり、お客様が増え、店員も入れ替わるようになったからです。人が覚えていられることには限界があります。

ネットショップでは、さらに難しくなります。

お客様の顔が見えません。

画面の向こうにいるのが誰なのか、何回目の購入なのか、前回何を買ったのか。意識して調べなければ分かりません。

そのため、多くのショップは「覚えること」をあきらめ、値引きに置き換えました。

誰に対しても1%返す。これなら覚えておく必要はありません。公平で、仕組みとしても分かりやすい方法です。

ただし、誰の記憶にも残りません。

アプリが持つのは「記憶」のほう

ロイヤルティアプリを「値引きを自動化するもの」と考えると、大事な部分を見落としてしまいます。

アプリで置き換えられるのは、店主が持っていた記憶と段取りのほうです。

商店街でやっていたこと アプリでの置き換え
顔と常連かどうかを覚える 会員・会員ステージ
いつ来て何をしたかを覚える 活動履歴、会員詳細
好みを覚える 参加したミッション、交換の履歴
「取っておきますね」 限定特典(リクエスト→マイル凍結→連絡→承認)
「入荷しましたよ」 通知メール、通知パネル

特に、限定特典の流れは、昔の「取り置き」に近い仕組みです。

お客様が申し込むとマイルが押さえられます。ショップが連絡を取り、やりとりをして、商品や特典を渡すときに承認します。

すべてを自動で完結させるのではなく、途中に人が入ります。

覚えているだけでは足りません

記録は、見に行かなければ存在しないのと同じです。

商店街の店主が強かったのは、ただ覚えていたからではありません。覚えたことを使って、先に動いていたからです。

アプリでいうと、承認待ちを毎日確認する、休眠しかけた方に気づく、限定特典を実際に渡す、といった対応がこれにあたります。

ここは自動化できません。

そして、自動化できないことが、小さいショップの強みでもあります。

件数が少ないことは弱みではありません

大きなショップは、たくさんの記録を持てても、一人ひとりに対応し続けるのは簡単ではありません。

月に何千件もの申請に、一件ずつ返事を書くことはできないからです。そうなると、結局は値引きの仕組みに戻ります。

一方、月に数件なら、返事を書くことができます。相手の名前を呼ぶこともできます。前回の交換を覚えておくこともできます。

規模が小さいことが有利になる、数少ない領域です。

スーパーのポイントがなぜ「お金」に寄るのかは別の記事に、何を渡すかの具体案は業種別の記事にまとめました。

まとめ

ロイヤルティアプリは、商店街の店主がやっていたことのうち、記憶と段取りの部分を引き受ける道具です。

値引きの自動化ではありません。

覚えて、気づいて、先に声をかける。

この形に近づけるほど、マイル制度は「安いから買う」のではなく、「この店だから買う」につながる仕組みになっていきます。