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「土曜に取っておきますね」を仕組みにする — 個人商店の記憶とロイヤルティアプリ

商店街の店で、こんな経験はないでしょうか。

顔を見ただけで「いつものでいい?」と聞かれる。子どもの頃に親と行っていた店で、大人になってから「お母さん元気?」と言われる。「これ好きだったよね、土曜に入るから取っておくよ」と言われる。

ポイントカードは1枚もありません。それでも、その店には通い続けていたはずです。

あれは何だったのか

あの体験は、店主が3つのことを覚えていたから成立していました。

覚えていたこと 具体例
誰か 顔、名前、家族
何をしたか いつ来て、何を買ったか
何が好きか 好み、買わなかったけど見ていたもの

そのうえで店主は、先に動いていました。入荷を知らせる、取っておく、勧めない。値引きの話は出てきません。

なぜ成立しなくなったのか

店が大きくなり、お客様が増え、店員が入れ替わったからです。人の記憶には上限があります。

ネットショップはさらに厳しい条件にあります。顔が見えません。画面の向こうに誰がいるのか、何回目なのか、前回何を買ったのか、意識して調べない限り分かりません。

だから多くのショップが、覚えることをあきらめて値引きに置き換えました。誰が相手でも1%返す。覚えなくていいので、公平で、そして誰の記憶にも残りません。

アプリが持つのは「記憶」のほう

ロイヤルティアプリを「値引きの自動化」だと思うと、ここを見落とします。実際に置き換えられるのは、店主の記憶と段取りのほうです。

商店街でやっていたこと アプリでの置き換え
顔と常連かどうかを覚える 会員・会員ランク
いつ来て何をしたかを覚える 活動履歴、会員詳細
好みを覚える 参加したミッション、交換の履歴
「取っておきますね」 限定特典(リクエスト→ポイント凍結→連絡→承認)
「入荷しましたよ」 通知メール、通知パネル

特に限定特典の流れは、取り置きそのものです。お客様が申し込むとポイントが押さえられ、ショップが連絡を取り、やりとりをして、渡すときに承認する。あいだに必ず人が入ります。

覚えているだけでは足りません

記録は、見に行かなければ存在しないのと同じです。

商店街の店主が強かったのは、覚えていたからではなく、覚えたことを使って先に動いていたからです。アプリでこれにあたるのは、承認待ちを毎日見ること、休眠しかけた方に気づくこと、限定特典を実際に渡すことです。

ここは自動化できません。そして、自動化できないことが小さいショップの強みでもあります。

件数が少ないことは弱みではありません

大きなショップは、記録は持てても対応しきれません。月に何千件の申請に一人ひとり返事を書くことはできないので、結局は値引きに戻ります。

月に数件なら、返事が書けます。相手の名前を呼べます。前回の交換を覚えていられます。規模が小さいほうが有利になる、数少ない領域です。

スーパーのポイントがなぜ「お金」に寄るのかは別の記事に、何を渡すかの具体案は業種別の記事にまとめました。

まとめ

ロイヤルティアプリは、商店街の店主がやっていたことのうち、記憶と段取りの部分を引き受ける道具です。値引きの自動化ではありません。覚えて、気づいて、先に声をかける。この形に近づけるほど、ポイント制度は「安いから買う」ではなく「この店だから買う」を作る側に回ります。